2009年1月16日金曜日

「SIVとコンデュイットとは何か」

●「SIVとコンデュイットとは何か」(EJ第2396号)
 新聞や雑誌のサブプライム問題の記事を読むと、「SIV」であるとか「コンデュイット」という言葉がよく出てきます。これは何を意味しているのでしょうか。 「SIV」は次の言葉の略です。ストラクチャード・インベストメント・ビークルというのです。
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   SIV = Structured Investment Vehicle
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 SIVというのは、金融機関が設立した投資運用を行う特別目的の法人のことです。日本でいえばノンバンクのようなものと考えればよいでしょう。 
 SIVは、民間МBS(住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証券)という証券を買い取り、それらを担保にしてABCP(資産担保コマーシャルペ-パー)を発行して資金調達をやっていたのです。CPは短期・低利のファイナンスなのです。
 この場合、MBSやCDOは資産となり、ABCPは負債になります。MBSやCDOは償還期限が長期であるのに対してABCPは30~90日の短期なのです。通常は長期金利の方が短期
金利よりも高いので利ざやを稼ぐことができたのです。そのためABCPの満期が来るたびに乗り換え(ロール・オーバー)を繰り返していたのです。
 そういう投資活動をなぜ銀行自身がやらなかったのかというと預金金融機関の場合、投資資産を増やすとそれに見合った自己資本を積み増ししなければならなかったからです。そこでオフバランス(連結対象外)のSIVという銀行の別動部隊を設立し、たとえ損失が出たとしても銀行の決算には何も影響を与えないようにしたのです。
 このような仕組みを作ったのは米銀最大手のシティなのです。
1988年のことですが、これがきっかけとなって、欧米銀行の間で普及したのです。直近の数字によると、欧米系SIVが発行した残高は5000憶ドル、米系SIVで1兆ドルという試算もあります。なお、SIVのバックの銀行のことをスポンサー銀行というのです。
 SIVは世界で約30創設され、その規模は約4000憶ドルともいわれています。そのうちの最大のスポンサーがシティ・グループであり、多い時で約1000憶ドルの残高があったといわれているのです。
 ところが、サブプライム問題でインターバンクで売り買いする債券市場であるABCP市場が崩壊してしまったのです。つまり今回のテーマの冒頭で述べたインターバンク市場の機能不全のことです。そもそもスポンサー銀行は、ABCP市場がロールオーバーできなくなるような事態は想定していなかったので、大きく計算が狂ったのです。
 こうなると、一番怖いのはSIVが流動性(現金)に窮して、MBSやCDOを投げ売りすることによって、市況が一段と悪化することです。そこで、ポールソン米財務長官が音頭を取り、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースの大手金融機関3社が中心となって、「M-LEC」という基
金を創設しようとしたのです。「M-LEC」とは、次の言葉の頭文字を取ったものであり、「コンデュイット」はこのことをいうのです。
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 M-LEC = Master Liquidity Enhansement Conduit
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 2007年10月15日に「M-LEC」の構想が発表されたのですが、それによると、同基金の規模は800憶~1000憶ドルであり、ABCP市場の回復を狙うことも基金の重要な目標になっているのです。しかし、結局この構想は見送られることになります。『サブプライム問題の正しい考え方』の著者である倉橋透氏と小林正宏氏は、「M-LEC」構想断念の経緯を次のように述べています。
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 これは、SIVが流動性に窮して民間MBSやCDOを投げ売りすることにより市況が悪化するのを防ぐため、SIV資産をM-LECが買い取って市場が安定化するまで支えることにより流動性を向上させるというもので、財務省も関与し、90日以内の設立を目指すと発表された。しかしながら、M-LECの買い取る資産の対象や買取価格、M-LEC自身の資金調達など最初から疑問が多かった。12月には日本のメガバンク3行も50憶ドルの融資枠の要請があったものの、断られ、ヨーロッパの銀行も前向きではなく、12月下旬にはついにM-LECの設立は断念された。     ――倉橋透・小林正宏著『サブプライム問題の正しい考え方』/中公新書/1941
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 本当は、世界最大のSIVを抱えて危機に瀕していたシティグループが財務省に頼み込んで、ポールソン財務長官を動かし、M-LECの設立を図ろうとしたのです。
 しかし、決算発表を待っていたかのように実施された格付け機関による怒涛の証券化商品の格下げがあり、10月以降も証券化商品の下落は止まらなかったのです。
 2007年10月17日に米証券会社大手のメリルリンチが決算を発表し、サブプライム関連で79憶ドルの評価損を計上、最終損益は22憶4000万ドルの赤字となったのです。11月3日、ウォールストリート・ジャーナルの電子版は、シティグループのプリンス会長が緊急役員会で辞任すると伝えたのです。証券
化商品の幹部2人も既に退社していたのです。
 しかし、この格付け機関がかなりいい加減なのです。証券化商品の内容を吟味する立場であった大手格付け機関がこれらの商品に高い格付けを与えていたのです。しかし、デフォルトが生ずると一気に下げたのです。[サブプライム不況と日本経済/08]


≪画像および関連情報≫
 ●CDOとは何か
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社債や貸出債権(ローン)などから構成される資産を担保として発行される資産担保証券の一種で、証券化商品である。担保とする商品が債券または債券類似商品の場合にはCBOと呼ばれるが、貸出債権の場合にはCLOと呼ばれる。CDOは、CBOあるいはCLOのいずれか、またはその双方を包含する商品のことをいう。

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